第一章 鳥は空を仰ぎ見る

4/12
前へ
/12ページ
次へ
外観は質素ながらも他の住居よりも二回りは大きい、実務的な雰囲気を受ける建物の中にヒークはいた。侍女によって待たされ、副首長の到着を今か今かと待ちかねたところであった。 すると、程なくして扉の奥から一人の女性が現れた。灯りを受けると桃色の煌めきが浮かび上がる不思議な長い銀髪を翻し、空色の民族風ロングワンピースを纏った、見るからに富裕層といった佇まい。それと比べると、暴風で乱れた腰まで伸びた黒髪に、裾が破れ始めた黒い外套、赤のコルセットに黒のホットパンツと黒のロングブーツという自分のみすぼらしさを感じずにはいられなかった。 そして、女性は長く尖った耳に長髪をかき上げながら、黄緑色の瞳をヒークの真紅の瞳に向けて薄桃色の唇を開く。 「物見鳥(ものみどり)より情報は得ました。お疲れ様、と言っておきましょう。ヒーク=イドリー団長」 「あんなザコ、戦果の内にも入らねえよ」 「では手当は不要ということですね」 「そりゃ困る。口が滑ったよ」 ピリシャ=フォーゲル。名ばかりの王であるウルガンを影で支え、ボルゲベルグを経済大国にしようと野心を燃やす若き副首長である。ウルガンの半分ほどの年齢でありながらも、その独自の経済観は舌を巻くレベルで、彼女が赴任してから経済水準が格段に向上した実績があるのだ。 「それにしても、最近野盗が増えてきてないか?」 「諸外国も何やらキナ臭い動向があるようです。おおよそそこで先行きに不安を感じた者か、市場に出回る前に我が国の資源を拝借しようとする輩なのでしょう」 「国がデカくなるとその分目ぇ付けられやすくなるってことだな。オレたちはその分働きが増えていいけどよ」 「良くはありません」 ピリシャはどこから取り出したのか、羽をあしらった扇で自らの掌を音高く叩いた。 「一々取るに足らない賊が出る度に出撃させていては資金の無駄です。あなたがた自警団も自警と名乗っているのなら、防衛機構のアイディアの一つや二つは考えてみてほしいものです」 「へっ、結局金勘定か。オレは暴れられればなんでもいいんだよ、そんな話はタウロンにでもしな」 「貴女団長でしょう!お待ちなさい!」 金金金。口を突けばそればかりのピリシャのことがヒークは苦手だった。後ろ手で荒っぽく扉を閉めながら庵を後にするヒークは、岩山が伸び切った上で光を落とす青空を見上げながら静かに呟いた。 「……同じ血族だとは思えないな」 ピリシャは純粋な鳥人族。ヒークはそんな鳥人族と人間の間に生まれたハーフ。生まれのことを普段意識しないヒークであるが、彼女と相まみえる時にはどうしても意識してしまうのだった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加