第一章 鳥は空を仰ぎ見る

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ヒークはそんなスピューゲルの中でも隧道入口にほど近い、自警団の詰め所で寝泊まりしている。隊長というのもあるが、彼女にとってはここが家のようなものだった。道中でイレンナに貰ったパンと、自分で拵えた干し肉で簡素な夕食を済ませると、一度隧道に戻っていく。 このボルゲベルグには活火山があり、その熱源のおかげで熱せられた水脈が温泉となって湧き出る場所がこの隧道にはあるのだ。鉱石、空輸、温泉まであると知られれば、他国も確かに黙ってはいられないだろう。貸し切り状態の石の湯船に浸かりながら、ヒークは一人天井を見上げてしばし至福の時を過ごしたのだった。 ~*~ ここまでが、ヒーク自身が過ごすごく平凡な一日。違いこそあれど、このような日々を19年間繰り返して来たといっても過言ではないだろう。 だが、この翌日の雨の一日。その日は彼女にとって一つのターニングポイントとなる一日になるとはこの時誰も知る由もなかったのであった。
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