第一章 鳥は空を仰ぎ見る

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「女だてらになかなかやる。さすがは俺の部下を返り討ちにしただけはあるな」 「てことはテメェが親玉か。いや、テメェも下っ端か?誰の差し金だよ!」 「女ごときに話す必要は…ねえ!」 大男が渾身のアッパーカットを放ってくる。しかし、それをヒークは待っていた。左足の裏でそれを受けると、勢いに逆らわずに上昇。その勢いに乗せて、左足を軸に右足を勢いよく振り上げ、男の顎を蹴り上げた。 「ご」 「女が何だって?あぁ?」 すると、未だ滞空するヒークの片足に炎が灯った。それは激しく燃え上がり、触れる雨粒すらも蒸発させていく。 「地獄で詫びな!『煉獄闊歩(れんごくかっぽ)』!!」 そして、激しく燃え上がる踵落としを怯んだ大男の顔面に叩き込み、後頭部から地面に叩きつけた。沈黙したのを確認すると、ヒークは背後を振り返る。 「さあて、おいタウロン!そっちの首尾はど…」 すると、俄かに違和感を感じた。それを感じてゆっくり振り返ると、確かにさっき倒したはずの大男が上体を起こし、ヒークの髪を掴んでいたのだ。 「テメェ…気安く触るんじゃねえ!」 一度は収まった怒りが爆発的に蘇り、『撃輪』を撃って引き剥がそうとした。だが、男は大地に根が生えたように動かない。 「!?」 「ヒーク…イドリー…お前を確実に…仕留めるには…こうするしか…!」 不穏な言葉を口走ると、大男はヒークの首を掴み、崖に向かって駆けだした。ヒークも抵抗し、何度も体を蹴るが、決死を決意した男の突進は彼女の脚力をもってしても止められなかった。 「タウ、ロ……!」 「そうらぁ!!」 その直後、長斧を振って子分を弾き飛ばしたタウロンの姿が現れた。だが、彼が目にしたのは、崖下へと吸い込まれて行く彼女の黒髪と、それに覆いかぶさるように落ちていく男の巨体であった。 「な…!」 斧を投げ捨て、崖に駆け寄るタウロン。だが、もう視界のどこにも二人の姿は見えず、雨雲のせいで深く発生した霧の彼方に消え去ってしまったのだった。雨の冷たさと、喪失感によって体が芯まで冷え込んで。タウロンは絶叫にも近い叫びを崖下に向けて放った。 「ひ…ヒーーークーーーーーッ!!!」
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