第一章 鳥は空を仰ぎ見る

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~*~ けたたましく叫ぶ鳥の声で、まどろみの中にあったヒークの意識は覚醒した。近くにかけてあったお決まりの服を掴み、寝間着を脱ぎながら着替えていく。 「ヒーク!早朝だけど出撃だってうわぁごめん!」 すると、タウロンがドアを開けて入って来たが、着替え中のヒークをみて即座に慌てふためく。その様子を意にも介さずに、マイペースに着替えを進めていく。 「それで躊躇される方が困る。状況は」 「わ、わかった。門前に三人、たぶん山賊。前追い返した奴らの一派だと思う。フォーゲル副首長から飛行の許可は貰ってて、家の前に鳥をつけてあるよ」 「気が利くねぇ。手で目を隠さないで言えたらもっと良いんだけどよ」 「これは気持ちの問題なんだ!からかってないでさっさと出てよ!」 冗談を言ってる間に、ヒークはすでに着替え終わっていた。言うが速いか扉を蹴破るように出て行くと、家の前に太古の翼竜のごとき巨大な鳥が雨に打たれながら繋がれているのを確認した。 「いつ見てもでかいもんだ」 「輸送にも使う品種だからね。馬力もすごいよ」 タウロンが大型鳥の足に固くロープを結わえると、ヒークと自分にその片方を渡した。そしてロープを強く引くと同時に、鳥は力強く地を蹴って隧道へと一直線に飛び立った。 ただでさえ冷たい隧道の空気がさらに冷え込み、凍らせたナイフで肌を切り裂かれるような冷気が体を襲う。耳も風切り音で支配され、目も風圧で開けられない。乗り心地は最悪だが、その分移動は歩くよりも何十倍も早く移動できる。そして出口付近で原則すると、鳥は力強く羽ばたいて外へと飛び出して行った。一仕事終えたことで自分の巣に戻って行ったのだろう。ヒークは再度靴の爪先で地を打ち、臨戦態勢に入る。 「何度も言うよ、ヒーク。くれぐれも」 「わかってる。無理しなくたって、オレなら勝てる。誰が相手だろうとな!」 そしてヒークが洞穴から飛び出し、門を軽々と飛び越えて敵の前へと降り立つ。そこでは防衛に徹していたはずの見張り達の姿が見当たらなかった。 「あ…?」 「あんたが。ヒーク=イドリーとかいうヤツだな」 代わりにいたのは三人の男。二人は昨日返り討ちにした男で、奥には2mに届こうかという巨漢が立っていた。 「おい。ここにいた奴らはどうした」 「あのザコ共ならオネンネしてる内に崖下に捨てておいてやったぜ。仕事サボってる奴なんざゴミも当然だよなぁ?」 「…睡眠毒か!貴様!!」 タウロンはそう叫ぶと、あることに気付く。ヒークの纏った空気が更に鋭利で熱いものとなっていたのだ。目つきが鋭くなり、背後には陽炎が立っている。両脇を固める二人はわずかにたじろいだように見えた。 「そうかい。ならお前らも同じ目に遭わせてやろうかね…!!」 すると、二人は同時に腰から筒を取り出し、勢いよく息を吹き込んだ。恐らくは毒の吹き矢だろう。細く、しかも足場が悪い状態での回避は常人であれば難しい。だが、ヒークは手を着かない側転で矢をかわし、その勢いで左側の男の足元に滑り込んで足を払い、転ばせる。 「クソがっ!」 前向きに転んだ男はナイフでヒークの足を一閃するも、ジャンプでかわされる。そして飛び上がったヒークはそのまま男の頭を踏み砕き、その足で崖に向かって駆けると、崖を蹴って飛び蹴りを大男に向けて放った。 「せいやあ!」 「おっと」 常人であればたまらず吹き飛ぶ一撃だが、ガタイがいいだけに両腕の防御で耐えた。 「おい、何ボサッとしてやがる!後ろにいるチビも倒せ!」 「タウロン、そいつザコだ!お前でも倒せる!」 双方の指示が飛び、だがその成行きは見届けられず。大男の拳とヒークの蹴りが再び激突した。
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