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あなたは何をもって人間だと言えますか?または人間らしいと言えますか?会話がまともにできたらですか?生活が送れていたら?三代欲求があれば?明日も生きていると確信できたら?お金が好きだったら?そんな哲学的な質問に完璧な答えなどあるだろうか。あるのならば私は教えてほしい。
とある街に彼は一人で穏やかに過ごしていた。一見普通の家に見えるその家の地下には研究所がある。もう定年を過ぎた彼は職を持たずに毎日研究所に籠もっていた。地上にある家は意味をなしていないくらい使われていなく、寝るのも食べるのも研究所でしていた。そんな彼はただのおじいさんでもあり、博士でもある。
博士にはもう叶わない夢があった。そんな雲の上の夢は、娘が欲しかったという過去にすがる願望だ。だが博士と呼ばれるくらいには技術があった。
「わしが作るしかない。この身体が動く間に娘に会いたい」
決心した瞬間から一日のほとんどを娘作りに費やした。決心した日から半年が経ち、娘は完成した。もう博士の身体は達成感と共に疲れ切っていて、娘を放置してその場に眠ってしまった。
「...ますか?」
「い...てま...か?」
「生きてますか?」
若々しい女性の声に瞼をゆっくり開いた。仰向けに寝転がった博士の視界は、素っ裸の娘で塞がれていた。
「おぉ、ついに...ついにわしの娘が...」
乾いた喉の奥からかすれた声で話しかけた。
「ム・ス・メ...ムスメとはなんですか、博士」
まだ当時何も知識もない私に、人間とは何かをすべて教えてくれたのは博士だった。
私は周りからすれば何の違和感もなく人間界に溶け込んでいる、ただの人間。でもほんとうは人造人間の女性。お友達だってできたし、お仕事だって上手くこなしている。職場でもお友達にもよくスタイルを褒められることがあるけど、この身体も髪型も全部パパの趣味だ。なりたくてこんな外見になったわけじゃないけど、パパが喜んでいる顔が好きで言うことを聞いている。
「お待たせー!ごめん待ったよね、寝坊しちゃってさ」
今日は休日、お友達の瑞紀が美味しいお店を見つけたから一緒にランチに行こうと誘ってきた。誘ってきた瑞紀が寝坊するとは、人間は不完全にできている。私はもちろん起きたいタイミングで再起動できる。寝坊なんて一度もしたことがない。
「全然大丈夫よ、本を読んで待ってたらあっという間だったわ」
「ほんとごめんねー、ありがとう。もうお店はこの近くだからさ、行こ行こ!」
私は人造人間だけど、人間界に溶け込めるように食事はできるように作られている。味もしっかり感じる。歯や舌だって本物そっくりだ。
イタリアンのお店に入り、私達は二人ともパスタを頼んだ。名前はよくわからなかったけど、いわゆるキノコパスタを頼み、瑞紀はペペロンチーノのようなものを頼んでいた。本格的すぎて私にはよくわからない。
「ここのパスタ美味しいわね」
「そうでしょ?私お気に入りすぎて毎週来てるの」
瑞紀は毎週注文するメニューを変えて楽しんでいるらしい。
「ごめん、お手洗い行ってくるね」
「あ、うん...行ってらっしゃい」
食べ終わった後、瑞紀はお手洗いへ行った。私は食事はできるけど、排泄ができない。すべて体内で吸収されて何も出てこないのだ。良く言えば美味しいと感じるだけ感じて、食生活からなる病気になったりしない。けど、唯一人間らしくない。誰かがお手洗いへ行くたびにその違和感を感じていた。変な話かもしれないけど、私は排泄という現象に憧れを持っている。
「お待たせ」
「遅かったわね、何してたの?」
これがデリカシーのない質問なんて私は知らなかった。
「ちょっとお腹の調子があんまり良くないみたいで。言わせないでよ、もう」
「あまり言いたくないことなの?」
「そりゃあ、だって...お下痢しちゃってるってことだもん。自分だったらあまり言いたくないでしょ?」
「そ、そうだね」
正直お下痢の意味すら知らなかったけど、知ってるふりをした。
ランチ後は解散して家に帰った。帰ってすぐパソコンを開き、意味を調べた。腸の調子によって排便される形態が違うなんてことに衝撃を受けた。私は自分のお尻をさすった。
「パパ...話があるの」
私は翌日、地下の研究所へ入り真剣な目つきでパパを呼んだ。
「どうしたんだい」
はじめてこんなに羞恥心を心に抱いた。これを言うことは恥ずかしいと何処かで感じていたのかもしれない。きっと私は今、人間の女性らしい表情をしているに違いない。
「私も...排泄したいの...」
パパは驚いた様子で私の顔を見た。はじめて見る表情だった。
「排泄なんて汚いもの、知らなくていい。女性は美しいままで、完璧でいることが美しいのだ」
「そんなことないわ!」
私は本気。そんなことで、と思われるのはわかっている。でも私は、人間とは綺麗なとこだけが美しいわけじゃないような気がする。人間らしい光景にこそ美しい瞬間があると思う。だから私は排泄というのをしてみたい。
「私のお尻にも...排便穴を開けてちょうだい...」
また私はお尻をさすった。
「そんな汚い言葉、使うんじゃない」
「私だって!私だって...お腹が痛くなったりして、頭の中が排便したくてたまらなくなって、何も考えられないくらい真っ白になって、お漏らししそうになりながらお手洗いに走って行ったりしたいのよ。毎日毎日ちゃんと、排便穴を拭きたい。それだけじゃない、おならだって恥ずかしいけどきっと汚いものじゃないのよ」
今まで私が見てきて感じたことを素直に吐ききった。人間らしさってこういう当たり前な自然な行為も含まれてると思うの、だから美しいの。
数秒の沈黙だったはずだけど、何十分も気まづい雰囲気が続いた気がした。
「お尻を出して研究台に乗りなさい...」
私は再起動するため、そこで意識がなくなった。
目が覚めると、私は部屋のベッドに仰向けに寝転がっていた。夢だと疑ってしまうような目覚めに戸惑いながら身体を起こし、下着を下ろして鏡の前に立った。身体を捻り、お尻を鏡に突き出すようなポーズになると、右手でお尻の頬を広げた。そこには可憐な桃色の穴ができていた。人間と同じように排便穴の周りに綺麗な皺があり、力を入れると閉まったり緩んだりした。本物との差がわからないほどの完成度だった。
「綺麗...」
瑞紀にまたランチへ行こうと誘ったのは私だった。前と同じのイタリアンへ行き、私はペペロンチーノのようなものを、瑞紀はカルボナーラのようなものを食べた。
「やっぱりここのお店美味しいわね」
「ハマるでしょ?これからは二人で常連だね」
お店にくる前に朝食をたくさん食べて、昨晩もたくさん食べた。もちろん今日のために。
私達はパスタを食べ終わると食後に珈琲を注文した。世間話をしながら珈琲をたまに啜る。
「お手洗い行ってくるね」
「あ、私も行くわ」
もうすでに便意を感じていた私はこの時を待っていた。はじめての感覚にお尻がむずむずする。
お手洗いへ行くと二人は別々の個室に入り、鍵を閉めた。隣の個室からは瑞紀の排泄音や、力む時に漏れる声が少し聞こえた。はじめて聞く人間の排泄音に耳を澄ませてじっくり聞いてしまう。だが私の排便穴ももう限界だと言ってる。下着を下ろし便座に座ると、相当我慢していたのか自然に排便穴が開いていき、大便がゆっくり排泄されていく。
「これが...排便...すごい」
隣に聞こえないような声で呟いた。嬉しさと快感と恥ずかしさで涙が溢れた。
「嬉しい...」
瑞紀の個室からは激しい排便音まで響いてきた。これがお下痢の音。それすらも美しく聞こえた。汚いことなんてない。生きていく上でこれも美しいと言えることのはずよ。
「瑞紀、綺麗な音よ」
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