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カフェエの鍵が閉まっているのを確認した丁度その時、ボォン、ボォン、と柱時計の様な音が聞こえた。マガレイトに結わえた儘の黒髪を揺らし辺りを見回し、思わず仰天した。
夜の帳――漆黒の筈の天蓋に流れ往く、毒々しい原色の数々!
あまつさえそれらは銘々発光し、まるで乱痴気騒ぎを催している。
厳粛なる静寂に包まれていた筈の、そう、見慣れ切っていた筈の帝都が、見たことも無い光景に着替えて鞠子の前に姿を顕したのだ。
しかしそれだけなら、昼間の勤めが眼に障ったのだと思い過ごすことも出来た。
だが恐るべきことに、真の怪奇はその直後に訪れた。
「ぉ……ぉ……あぉ……ぉ……」
空洞に轟く様な不気味な音を聞いて振り返れば、其処に居たるは異形の像。
辛うじて人型かと思えたのは頭と思しき部位に三つの黒点が穿たれていたのと、手足の様な物が生えていたからに過ぎない。
その他は全く奇天烈な化物が、鞠子の三歩と一寸の処に居た――さっきまで辺りには間違いなく誰も居なかったと云うのに!
驚愕のあまり鞠子はヒュッと喉を鳴らしたが、うかうかしていられる暇は無いとすぐ知った。
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