1.初日

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 企画部は資材部とはフロアが違ったので、エレベータを待つのももどかしく、私は階段を駆け上がって行った。  お陰で企画部に着いたときは、息が切れてしまってしばらく壁に寄り掛かって息を整えなければならなかった。  「お、なんだよ。  お前、研修の時一緒だった…霧里?」  声を掛けられてぜーぜーしながら顔をあげると、見知った顔がニヤニヤしながら私を見ていた。  「志賀、くん…」  息を切らしながら言うと、少し心配そうな顔になる。  「なに、どうした?  発作か何か?」    私は首を横に大きく振る。  「お前、資材じゃなかったっけ?  フロアが違うだろ、迷子になったのか」  志賀くんは背をさすってくれる。    「そうなんだけど…」  私が言いかけたとき、廊下の向こうから歩いてきた人が  「おい、何してる。  もう始業時間だぞ」  と大きな声で言った。  「あ、はい!」  私と志賀くんは一緒に答えて、私はずいぶん落ち着いてきた呼吸を、一度大きく吸って吐いて整えた。  「志賀くん、ありがと。もう大丈夫」  「資材、2フロア下だぞ、解ってるか?」  「ああ、それが…  何だかさっぱり判んないんだけど、今日付で企画部に異動になった」  「はあ?」  志賀くんは大きく口を開けた。  「どういうこと?」  「だからさっぱり判んないんだって」  私が言うと、我に返ったように私の背を押して歩き出した。
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