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ノヴェロ国のとある屋敷の一角にて、フェイは書類を手に微笑みを浮かべていた。
自分の目の前には、二人の男がそれぞれ椅子に腰かけたり、壁に背を預けて立っていたりしているが、こちらに興味津々の眼差しを注いでくる。
そんな彼らに、一部ずつ企画書を渡す。
「二人共、一緒に準備を手伝ってくれて、どうもご苦労様。はい、今度は君たちが実働部隊ね」
そう労ってから指示を出せば、片割れのあどけなさの抜けない青年が、茶化すように口笛を吹く。
「え? フェイさん、次は俺達でいいの?」
「……面倒臭ぇ」
もう一人の長身の男性は青年とは打って変わり、気だるげに溜息を零す。
「えー、楽しそうじゃないですか。あんまり怠けていると、身体が鈍(なま)りますよ?」
「そうじゃねぇよ。この計画とやらが、いちいち細かい指示が飛んでて、面倒臭ぇんだよ」
「あー……そこは、ごめんね? こっちにも事情があるからさ」
男性の鋭い指摘に、苦笑いを浮かべる。
あの人の希望通りの舞台を作り上げるのと同時、彼女の目を誤魔化して小細工をしなければならない。
そうなると、内密に実働部隊に別の指示も与えなければならなくなるため、必要以上に計画が複雑化してしまう。
間違いなく、そのことに関して不満があるのだろう。
「うーん……俺は面白いと思いますけどね。ほら、騙し討ちとか考えただけでわくわくしません?」
「頭の中空っぽのくせに、それっぽいこと抜かすんじゃねぇよ。お前は本気で指示通りにしか動かねぇから、大変なんだよ。上手く援護するこっちの身にもなってみろ。臨機応変って言葉、知らねぇのか? この餓鬼」
「まあまあ、二人共。落ち着いて。それでね、その後にはこの子を使おうと考えているんだけど、二人はどう思う?」
刺客の一人の名前を出せば、それぞれの反応が返ってくる。
「……あいつ、役に立つのかよ?」
「目くらましには、ちょうどいいんじゃないですか? あいつ、実戦には向かないけど機転は利くし、馬鹿じゃないからさ」
「あ、それならお前よりよっぽどマシだわな」
「ちょ、ひどい!!」
「はいはい。それじゃあ、この子を採用しても問題ないかな?」
「いいですよー。いざとなったら、俺たちも動きますんで」
「つーか、こいつを使うのはまだ先の話だろ。それで? あんたは、今回はどういう立ち回りだ?」
「前回と同じで、被害者になり済まして裏で動くよ。だから、援護が必要な時は連絡をして」
「ああ、分かった」
「りょーかい」
「じゃあ、俺は他にも別件が立て込んでいるから、これで失礼するよ」
その部屋を後にして、そのまま屋敷の外にも出る。
もうすぐ夏が迫っているからか、爽やかな風が頬を撫でる。
(……姫、絶対に死なないでね)
自分の思い描く未来を実現させるには、ディアナの存在は必要不可欠だ。
この程度のことで命の危機に瀕していては、先が思いやられる。
でも、あの彼女のことだ。
何があってもそう易々と生を手放したりはしないだろうと、信じられる。
「……さて。もう一仕事、片づけてきますか」
誰にともなく呟き、石畳の上を軽やかな足取りで進んでいった。
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