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そして
夏のツケが回ってきて、僕の机の上には参考書やら問題集やらが乱雑に積み重なっている。模試の結果表を丸めて放り投げたが、ゴミ箱目前で失速し、床に転がった。
立ち上がり、拾い上げて、ゴミ箱に落とす。
机に戻ろうとしたらカナカナカナと涼しげな声がした。窓辺に向かう。
たぶんこいつが今年最後のヒグラシ。誰かに出会えただろうか。出会えたなら、ちゃんと別れを告げたのだろうか。物憂げな声はどちらとも答えはしない。
秋の虫も鳴き始めている。
たなびく雲は朱色を帯び、風は穏やかな涼しさで通り過ぎていく。
はらりと二枚の紙が机から落ちた。
そっと拾い上げる。
一枚は、恥ずかしがるお母さんを説得して撮らせた結婚写真のスナップ。一緒にいたい人といられるのならばそれに越したことはない。きっとそれは当たり前のことなんかじゃないから。
母親の夫が僕の父だという自覚はまだない。でも生活導線がぶつからなくなってきた。だから、まあ、そういうことだ。
もう一枚も新郎新婦の写真。こっちはハガキだ。「結婚しました」の文字の下で笑う花嫁は幸せそうだった。しなびて小さくなった青いヨーヨーのなれの果てと一緒に、静かにゴミ箱へと落とした。
僕の大好きな夏が、終わった。
* fin *
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