62人が本棚に入れています
本棚に追加
「いったいなんだったんだろう」
こんな話を誰かにしたところで信じてもらえるはずもないだろうなと思いながら戸締まりをすると、まるで何事もなかったかのように眠りにつく。
翌日土曜日。
学校もお休みのため、家でだらだらと過ごしていると、ふと昨夜のことを思い出す。
バンパイアなんているはずがない。
全て夢だったんじゃないかとさえ思えてしまうが、今も首筋に残る牙の跡は、その考えを否定しする。
「はぁ……。よしっ! 考えるのは止め止め、折角の休みなんだしゆっくり過ごさなきゃ」
「何を考えていたんですか?」
背後から聞こえた声にバッと振り返ると、そこには昨夜の男の姿。
何でここにいるのか、そもそもどうやって入ったのか聞くと「2階の窓が空いてましたので、そこからお邪魔しました。ちなみに、昨夜もそこから」と、ムカつくくらいに柔らかな笑みが向けられる。
暑いからと窓を開けていた不用心な自分に後悔するが、まさか2階から侵入されるなんて、それもバンパイアになんて予想できるはずがない。
それよりも、今は他に気になることがある。
この男が何故ここに、私の前に現れたか。
「同族を探しに行ったんじゃないの?」
「はい、ですが何故でしょう。美味しそうな貴女の甘い香りに誘われ、ここへ来ていました。ジュルル」
「わかったから、ヨダレ垂らしながら私を見るのは止めて」
折角のお休みだというのに、こんなバンパイアに付き纏われてはゆっくりどころではない。
私は頭を横に傾けると「吸えば」と男に言う。
「いいのですか?」
「何度も来られたら迷惑なのよ。血を吸わせてあげるかわりに、もうここへは来ないでよね」
男は柔らかな笑みを浮かべると、私に近づき腰を自分へと引き寄せる。
近い距離に鼓動が高鳴り、男の唇が首筋へと近づく。
昨夜と同じ痛みがくるのだろうと、ぐっと瞼を閉じたその時「いただきます」と耳元で囁かれた。
最初のコメントを投稿しよう!