62人が本棚に入れています
本棚に追加
その囁きと同時に、首筋に痛みを感じ声が漏れる。
わかっていたことだが、やはり血を吸われる時の痛みに顔が歪んでしまう。
だが次第にその痛みが気持ちいいと感じ始め、甘い痺れに酔ってしまったような感覚になる。
「って、いつまで吸ってんのよ」
「おっと、これは失礼。貴女の味が私好みで、つい吸い過ぎてしまいました」
男は笑顔で答えているが、吸い過ぎると言うことは私の命に関わるということであり、笑い事ではない。
兎に角これで満足したはず。
約束通り、もうここへ来ないようにと念押しすると、伸ばされた手に顎を掴まれてしまう。
男の妖艶な瞳が私を捉え、声が出せなくなってしまう。
「やはり貴女の血は美味しいですね。それに、こうしてよく見ると貴女自身も美しい」
「ッ、いい加減にして!! 約束は約束よ、誤魔化さないで」
男はスッと顎を掴んでいた手を放すと、くつくつと喉を鳴らし「失礼。あまりにも貴女が感情的だったものでつい」と、馬鹿にしたようなその言い方に、私は恥ずかしさと苛立ちが込み上げる。
「まさか、約束を破るつもじゃないでしょうね」
「まさか。ですが、私は貴女の言葉に頷いた覚えはありませんよ」
先程のことを思い出すが、男の言う通り私の言葉に了承はしていない。
男が血を吸ったことで了承したのだと勝手に私が思っただけ。
すると男は「一目見たときから貴女に惹かれるものを感じていました」と真剣な表情を私に向け言う。
その眼差しに鼓動が大きく脈打ち、次第に近づく距離に鼓動は更に加速する。
気づけば、男から目が逸らせなくなっていた。
「それって……」
「ええ、どうやら私は貴女の……」
鼓動を高鳴らせ次の言葉を待っていると、男はうっとりとするように目を細め、頬を色付かせながら口を開く。
最初のコメントを投稿しよう!