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「人って、私達のことをなんだと思ってるんでしょうね」
「え? バンパイアでしょ」
「そうなんですが、時々思うんですよ。バンパイアを本当に知ろうとした人はいたのか、と」
一瞬見せた男の表情はどこか悲しげで、実際にバンパイアと話しているからわかるが、今まで私が思ってきたバンパイアのイメージとは全く違う。
どれほど人が、自分がバンパイアという存在を知らなかったのか実感する。
誰にも本当のことは知られていないバンパイアという存在。
それは、本人からしたら悲しいものなのかもしれない。
私はまだこのバンパイアの名前すら知らないことを思い出し尋ねると、男は一瞬驚いた表情を浮かべたあと、直ぐにその表情は笑みへと変わり口を開く。
紡がれた言葉は耳に届き、私はその名を口にする。
「ラルム……」
ラルムはフランス語で、意味は涙。
「あなたのお名前も教えていただけますか」
「私は逢坂 結」
バンパイアとの生活はまだ始まったばかりだが、こうして改めてバンパイアのことを知ると、人とバンパイアとの違いは、羽があるか血を吸うのかという2つのみのようだ。
人と同じ食事もバンパイアはとるものの、何日かに一度は血を欲する吸血衝動に駆られる。
「なるほど。貴女にピッタリな素敵なお名前ですね」
名前を褒められるなんて今まで生きてきて初めてで、何だか嬉しいような気持ちを感じていると、突然ラルムは私の手首を掴みベッドへと押し倒した。
私の瞳にラルムの姿が映り、怪しげに瞳の奥が光っているように見える。
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