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最寄駅に着き階段を下りると、探さなくても目に飛び込んで来る、真っ赤な髪の彼を見て嬉しくなる。
すぐにでも駆け寄りたいのに、彼は三人の若い女の子に囲まれている。
仕方なく少し離れた場所で待っていると、会話が聞こえて来る。
「輝人くん、次のライブいつ」
「もう、かっこよすぎるんやけどぉ」
「サインして欲しい」
「ありがとうね、みんなまたライブ来てよ」
サービス精神旺盛な輝人くんは、笑顔で答えて握手なんかに応じている。
「行くに決まってるやん」
「ミキのことおぼえといてや」
「輝人くんの頭トマトみたーい 可愛い」
キャッキャッと飛び跳ねる女の子たちが、恋する乙女のような目をして輝人くんを囲んで、自然にボディタッチをしている姿を見て、嫉妬心よりも羨ましい気持ちになった。
彼の隣が相応しいのは、あの子たちみたいな華やかな子たちで、私なんかが隣にいてもいいんだろうかと、ネガティブな考えが頭を支配する。
泣きたい気持ちを、唇を噛んで我慢する。
見たくなくて俯いて、じっと足元を見つめる。
それでも消せなくて、ギュッと強く目を閉じた。
何分経ったかわからないけど、いつの間にか彼女たちはいなくなっていて、輝人くんが心配そうな顔をして隣に立っていた。
「舞衣ちゃん、会いたかったと」
大きくて少し垂れ目な目を細くして、くしゃっと私の大好きな笑顔を見せてくれると、それだけでもやもやした気持ちが和らぐから不思議だ。
でもやっぱり、さっきみたいな景色は見たくなかった。
「なんでそんなに泣きそうなの」
「だって...」
せっかく迎えに来てくれたのに、こんな顔を見せる私は最低だ。
大好きな笑顔が心配そうに曇るのを見て、輝人くんはバンドマンで、ファンがいて、あんな場面想定内だったはずなのに、目の当たりにするとやっぱりキツいなんて言えるはずなかった。
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