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さて、地上では人々が悲鳴を上げています。
彼らは横たわった白髪の老婆を取り囲んで口々に言います。
「自殺塔からまた人が飛び降りた」
「近所の認知症の婆さんだ。ほら、大工の孫が居ただろう」
「孫を息子と間違えるくらい症状が進んでいたからむしろ死んで楽になったんじゃないか」
「可哀想に」
「自殺塔にはやはり死神がいるんだ」
「近づいてはいけないよ」
老婆の死体は自らの髪の毛をしっかりと握りしめていました。
時空塔ではラウムの一日が始まろうとしています。バケツの水に映る自分の姿を見ながら考えごとをしています。黒く尖った角を優しく撫でてみたりもしています。
彼はブロンドの女性の話を聞いてしまったことを少々後悔していました。
時間が狂ってしまったからでしょうか。
いいえ、バケツの水がいつもより多く溜まってしまったからです。
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