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この国の服は一般的に、腕を通す穴の開いた布を羽織ってから身体にそって巻き付ける。それを肌蹴ないように腰辺りで紐でくくって完成。
女性なんかはその上に薄く編まれた色とりどりの布(シャラク)を羽織ったり、腰ひもを変えたりしてオシャレを楽しむ。
王族であろうと普段はこういった民の服装とそうそう変わらない。
しかし、今日のような時は別だ。
彼らは特有の引き摺るほど長い裾のものを着用し、その裾の長さで位の高さを表す。さらにその上に、男性は刺繍の入った布を羽織り、女性は赤いシャラクを羽織って胸のあたりで結ぶ。
民の羨望を一身に受ける美しく豪華な衣装なわけだ。
カタリス王、そして兄である第一王子に次ぐ位であるジルは、そんな衣装を立派に着こなしていた。珍しく右側面の髪は編み込んであり、その整った唇に美しい弧を描かせていた。
(ふ、…目が笑ってない)
しかし、その赤い瞳は細まることもなく周りを見定めるかのように光っている。
やがてカタリス王の演説が始まり、民衆は静かに耳を傾ける。僕も同じ様に神妙な顔で話を聞きつつ、どうしても視線はジルを追ってしまう。
並び立つ家族と同じ様に微笑みを崩さず、身動ぎもしない彼。こうしてみると、やはり世界が違うのだと感じる。木陰の下で居眠りをする姿やイタズラをしかけてくる姿が急に恋しくなった。
「__日が落ち、そしてまた日が昇るまでの時間、まだまだたっぷりと祭りを楽しんでくれ」
そうこうしているうちに、演説も終わりのようで、国中に響き渡るかのような堂々とした声で王が締めの言葉を言いきる。
彼が数歩後ろに並ぶ家族に目配せをすると、全員がすっと前に足を進め王に並び立つ。
輿入れをした王妃様以外、3対の真っ赤な瞳が揃ってこちらを向く様は圧巻の一言に尽きる。
数秒間民に向かって手を振って、その身を翻す直前の一瞬。
ジルと視線が交わりその瞳が微かに細められた気がした。
(気のせい、だよなあ…)
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