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「えと、その、ラル、は急にどうしたの?」 「どうしたのってゆうか、さっきも言ったけどずうっと話しかけたいとは思ってたんだよねェ。でもいつも1人でいるから1人が好きなのかなァとか思って尻込みしてたワケ」 「別に1人が好きなわけじゃ、ないけど…」 正直にそう言ってみると、目の前の男は顔を輝かせてパンパンと手を叩きだす。 ちょっとうるさい。ほら、ちらほら席に着き始めた生徒たちの視線が痛いほど集まってるじゃないか。 「良かったァ!  じゃあさ、早速今日一緒に帰らない?」 「えっと…」 その提案に咄嗟に頭によぎったのは、ジルの顔。 別に毎日約束してるわけじゃないけど… いやでも、昨日会った時、流れでまた明日ねとか言っちゃったし… ン~~~… 「…うん、わかった。一緒に…」 「わーい!!ありがとォ!」 またぱちぱちと忙しなく手を打ち鳴らして、喜んでいくれているようなラルの様子に、心が少しだけ浮足立つような、そんな感じがした。 *** 「ほお!ついにアリスにも友達ができたのかあ!」 「大げさだな、もう」 からかうようなジルの言い方がちょっと癪にさわって、ふんっとそっぽを向けば、少し触れあう肩から小刻みな揺れが伝わってくる。 「笑うな」 「はっはっは!ごめんなあ!あまりにも可愛らしい反応をするもんだから!」 少しの照れ臭さがありながらも報告してやったというのに、全く。 先日初めて認識した同室の男、ラルとはここ3日間ほとんどの行動を共にしていた。 一方的にキャッキャと話すラルの話を聞いているだけだったのが、ポツポツと僕も話すようになり。意外にも彼は聞き上手で、ジル以外の人に話すことに慣れていない僕の拙い話もせかすことなく聞いてくれるのであった。 そんな日々を過ごしていたもんだからもちろん授業後、寮に帰るときもラルと一緒で必然的にこの校舎裏からは足が遠のいていた。 しかし、別に約束してないことには違いないのだけれど、やはりふとした時にジルの顔とここの風景が頭に浮かんでしまう。心の隅でもやもやとして仕方ないので、今日、ラルに断って久々に足を運んだのだった。 それで、ここ数日現れなかった理由説明もかねて、友達ができた報告をしたのに。なのに!妙なお兄さん目線でからかわれる始末だ。 「おいおーい、俺が悪かったから機嫌直してくれないかあ?こっちを向いてくれ~~」 俺が悪かったなどとぬかしながらも語尾をわざとらしく伸ばして見せる隣の男に、肩でぶつかってやる。 僕が軽くぶつけたぐらいじゃピクリとも動きやしなかったが。 「やっとこっちを向いてくれたなあ!  それはともかく!友達ができたのは本当に喜ばしいなあ。うんうんっ、いいことだ!」 混じりけのない真っ黒な髪を揺らして2.3回首を振った後、背後の木の幹にトン、とその頭を預ける。 …なんだかいつもより妙にテンションが高いような。 「…でも少し、寂しくなってしまうなあ」 いつもと違う様子に僕が戸惑っていれば、ジルはぽつりとそう零した。 優しい木陰を作り出している木の葉たちを見上げるその表情は確かに寂しそうで。 でも、その瞳はどこか仄暗いような気がした。 咄嗟に何か言わなくてはならない気がして、気恥ずかしさを押し殺して正直な気持ちを口に出した。 「…別に、ここに来なくなるとかじゃ、」 「これが」 「…え?」 「これが、子を嫁に出す親の気持ちかなああああ」 さっきよりも3段階ほど強めの肩ドンをお見舞いしてやった。
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