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「ああ、そうだ。アリス、ちょっと横を向いてくれないかあ?」
僕の事をひとしきり笑って落ち着いたらしいジルがそう言うので
言われた通り、素直に首を動かす。
ちなみに僕の名前は正式にはアリオノス。だからほとんどの人がアリって呼ぶけれど、ジルだけはアリスと呼ぶ。女の子みたいで少し複雑だが。
それはともかく、横を向かされて一体何をされるのかと身を固くしていると、背中に軽く指が触れる感覚がした。
するとすぐに、腰まで伸びてしまった自分の髪がパラッと背中に広がった。どうやら髪を結っていた紐をほどかれたらしい。
「なに?」
「ん〜最近紐がほつれてきてるのが気になってたから。…ほい」
後ろから投げてよこされたのは、さっきまで長い髪をまとめてくれていた青い紐。麻でつくられたもので、昔、父の買った茶碗か何かの包みについていたものを拝借してきた。
まあ元々長く使うようなものじゃないから、毎朝結ぶときに紐がどんどんほつれてきてるのは分かっていたけど見て見ぬふりをしていた。
「髪、伸びたなあ」
「まあね。切るのもめんどくさくって」
「切ってやろうか?綺麗に手入れされてるから残念だけどなあ」
「切るときはジルにお願いしようかな。ほんと器用だね」
ボロボロの紐をなくさないよう取り敢えずもたもたと自分の手首に巻きつけていると、解放されていた髪は再びジルの手によって着々とまとめられているようで時々頭皮が引っ張られる。でもあくまで手つきはとても優しいもので、あっという間に首の辺りにあたりのくすぐったさが消えた。
「よし。できた!」
「え、ありがと…なんの紐?」
「んー?俺からのプレゼントだぞお」
「ホント!?」
彼の言葉に後頭部の結び目に手を伸ばすが、さすがに分かるはずもなく。
「ははっ、夜ほどくときにじっくり見ればいい」
そう言って僕を覗き込んでくる彼の顔はいたく満足気だった。
「そだね、とりあえずありがとう」
「いーえ」
ふりふりと尻尾を振るように髪の毛を揺らしてみせると、気だるげな猫のようにそれに片手でじゃれつくジルに笑みをこぼす。
ジルは僕のこの白い髪を気に入っているようでよく触れる。だらだらと喋っている時も大抵その長い指で梳くように髪を触っていることが多い。もしかしたら無意識なのかもしれない。
僕が髪を伸ばしている理由は”面倒くさいから”、だけじゃない。
…絶対に、言わないけど。
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