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「おじさん!1本!」
「あいよ~」
熱気のこもる屋台の中で、うすーく切られた鶏肉がおじさんの手によって串に通されていく。波をつくるように重ねられ、壺の中に突っ込まれる。
しばらくして出てきたそれは、茶色の膜につつまれてつやつやと輝き、さらに石に囲まれて燃え盛る火にかざされることで、よだれのでるイイ匂いがただよわせる。
「ほい、おまたせ」
「ありがとう!」
串を差し出してくれるのと反対の手に硬貨を2枚乗せる。
ありがとね~というおじさんの声を背に、受け取った串に早速かぶりつく。うまい。
パリッとした食感と肉のうまみを感じながら周囲をきょろきょろ見回す。
屋台に挟まれた通りには子供も大人もごった返している。
その隙間をぬって進みつつ、首を伸ばして周りを見渡していればようやくお目当ての2人を見つける。
「父さん、母さん」
屋台と屋台の間で人ごみを避けるように佇んでいた両親は、僕の声に反応してお互いにつき合わせていた顔をこちらに向けた。
「おかえり」
「うん、おまたせ」
「何ば買ってくるかと思っとたら、まあたカルサコ?」
「おいしいんだもん!」
手に持った串を掲げながら2人に近付けば、母さんに呆れた顔をされる。
僕と同じくらい髪の長い母さんはよく女の人に間違われるけれどれっきとした男だ。父さんと2人で切り盛りしている居酒屋で乱暴者が現れたらボコボコにして店の外に放り投げてるし。
でも、僕とは違って手入れにも気を使っている艶やかな髪を肩に流している様は子から見ても美しい。
「もう14になったっちゃけん、違うもんも買えばよかとに」
「好きなもんはすきなんですう。昔みたいに全部カルサコに使ったわけじゃないんだからいいじゃん~!」
「はは、そこは確かに成長したなあ」
さっき買ったばかりのカルサコは僕の大好物。父と母が作る料理は当然大好きだが、何故だかお祭りに来るとこのやたら濃くて素朴な味が食べたくなってしまうのだ。
そんなカルサコを巡って言い争いをする僕たちをニコニコと見守っている父さんも、男。
デカい身長に広い肩幅と料理人とは思えぬ圧の強さだが、穏やかで滅多に怒らない。
そんな2人のうなじには、揃いの華の文様。
例に漏れず彼らもミラ同士だ。
ミラには男とか女とかは全く関係ないから。神サマもさすがにそこまで考えるのは面倒だったのかもしれない。
ただし、子供を産むにはやっぱり男と女が必要だ。
だから、子供が欲しい男同士・女同士のミラ達のために王主導の孤児との引き合わせ施設があったりする。
…お互いを深く愛しすぎるミラの習性の弊害か、生まれ落ちた小さな命を愛することができない人たちはごまんといてしまうから。
つまり僕たち親子は血が繋がってなくて、そんでもって僕たちのような血のつながらない親子ってのは珍しくもなんともないわけで。
父さんと母さんの手を引いて屋台通りを歩けばほら、そこらに僕らと同じような家族が楽しそうに歩いてる。
「父さんたちは何買うの?」
「ん~…お腹空いとらんしなあ」
「俺もそんな空いてねえなあ」
「ええ、食べ物じゃなくてもほら…」
たくさんの頭の間から覗き見れば、少し先の右手に『占い』を掲げる屋台がある。
占いをする人は『ユアント』と呼ばれ、一種の専門職のようなもので、人によってはもの凄い人気を誇る。神官様も未来を見ることができるけど、それにはすごい金額のお金がかかるので手軽なユアントに視てもらう占いが人気だ。
屋台の前に立つ小柄なおにいさんが張り上げている客寄せの声がココまで聞こえてくる。
『かの有名な天才ユアント、ミロがあなたの未来を教えましょう!運勢からミラのことまで何でもござれだよ!!』
彼の頑張りのおかげかなかなか賑わっているようで、今も僕と同い年くらいの女の子たちが連れ立って入っていった。
「なんであの子たち、あんなのにお金使うのかなあ。カルサコ4本買った方が絶対いいよ」
「ん?…ああ、ユアントか。ありゃまたえらく怪しげだなあ」
「んあ~確かに、怪しかねえ。でもまあ、あんぐらいの年頃やったら色々気になることがあっとさ。あとカルサコはお前の好みの話やろ」
「ふ~ん?」
「それこそ自分のミラとか気になるっちゃなか?」
ふむ。気になる気持ちがあるのは理解できるが、占いで当てられるものなんだろうか?
あ、ミラといえば、
「そういや、父さんと母さんはどうやって出会ったの?」
「うぇ!?」
「おお…急だな」
「ん~なんかついこの間、自分のミラは直感で分かる、みたいなこと先生が言ってたから。そういや父さんたちの話聞いたことないなって」
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