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はじまりのうた
むかしむかし
天の神々以外には生き物がいなかったころ。
すべての父たる神ガダスは、住処である雲の下に広大な土地を創り出しました。
そして、その管理者であり新たな営みを創る存在として『人間』を創りました。
神ガダスは地上をずっと観察していましたが、次第に飽きてしまいました。
しかしその後も人間たちは子孫を増やし、国を創り、新しいものを生み出し続け日々の生活を営んでおりました。
ところで、神ガダスには二人の娘がいました。
ふたりとも大層な美人で姉の方をイダ、妹の方をラダといいました。
神ガダスは二人を目に入れても痛くないほど可愛がっておりました。
やがてイダとラダが成長したときのこと。
ふたりは連れ立ってこっそりと地上に降り立ちました。
初めて見る物の数々にはしゃぐふたりは、やがてその村の若者兄弟二人に出会い、それぞれイダは兄の方と妹は弟と、恋に落ちました。
初めて恋をした姉妹は夢中で恋人との逢瀬を重ねました。
父の目を盗み地上に降り立つことも次第に慣れていきました。
ふたりの恋路はとても順調に思われました。
しかし、村人の間で、若者の家を訪れる美女の噂が徐々に広まっていたのです。
噂の美女を一目見ようと兄弟の家にやって来た人々は、イダとラダのあまりの美しさにことごとく惚れてしまいました。
村人たちはこぞって姉妹に様々な贈り物をしましたが、一向に振り向いてなどもらえませんでした。
怒った村人たちは兄弟から2人を奪うために恐ろしい計画を立てます。
その計画を事前に知った4人は共に村の外へと逃げ出しました。
ところが、どこの村に行っても同じような事態が繰り返されます。
そのうち、『人を狂わせるほどの美人姉妹』の噂はその国の王にまで伝わりました。
興味を持った王は姉妹を差し出すように言いましたが、姉妹に惚れ込んでいる村人達はそれに従いませんでした。
怒った王は2人を奪うために村に軍を差し向けました。
逃げ出した4人は顔を隠して生活しますが、勝手に描かれた2人の姿絵まで出回るようになり、王もそれを見てさらに追跡に力を入れます。
兄弟はイダとラダに天界に逃げるよう伝えますが、恋人が狙われている状況で彼女たちは逃げたがりませんでした。
やがて一国の王が追いかける美女の噂はどんどん尾ひれがついて、他国へと広まっていき、国を越えた戦いにまで発展していきます。
その頃、ようやく神ガダスが地上が騒がしい事に気が付きます。
神ガダスは二人の娘が地上にいることを見咎めて慌てて連れ戻します。
そこで二人から話を聞いた神ガダスは大層お怒りになりました。
醜い争いをする人間に。
我が娘を誑かした男たちに。
しかし彼の手を以てしても止められないほど争いは大きくなっていました。
よって神ガダスはあることを思いつきました。
神ガダスは地上の人間たちを無造作に二人ずつ、結び合わせました。
そうすると、彼らは武器を捨て、自分たちの結び合わせられた相手にひたすらに尽くすようになりました。
神ガダスは、元々天から定められた愛すべき相手が存在すれば、今回のように醜い欲を抱きぶつけ合うこともないだろうと考えられたのです。
そしてそれは見事にその通りになりました。
平穏を取り戻した地上を見た神ガダスは満足され、その後生まれ落ちる全ての人間たちにも愛すべき相手を定めるようになりました。
__『カリオン神話 二章』より(一部改変)
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