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どちら様ですか?
入社五年目。毎月の残業時間は五十時間程度。彼氏いない歴イコール年齢の私、紀川結恵は、今日も靴底の磨り減ったパンプスを引きずるようにして夜道を歩いていた。
手にはビールと弁当が入ったコンビニの白いビニール袋。駅から徒歩十五分もかかる我が城、一人暮らしのアパートの部屋には当然のごとく灯りはない。
鍵を開けて真っ暗な部屋に入ると、もわっとした室内干しの洗濯物の臭いが充満している。それだけではない。異様に暖かい。
「嘘?! 今朝ちゃんと消したのに!」
慌てて靴を脱いで、狭い1DKの家の中へ飛び込んでいく。僅か四歩で目的地に到着した。頭上には、煌々と光を放つ小さな緑のパイロットランプ。ザ・エアコン稼動中だった。
「光熱費が……」
思わず、へなへなと冷たいフローリングに座り込んでしまう。
いくら勤め人とは言え、中小企業なんてサービス残業万歳状態で手取りはそれ程芳しくはない。よりによって高いプロパンガスが通じているこのアパートはエアコンもガスなので、丸一日つけっぱなしだった事実は如実に使用料明細へ反映されてしまうだろう。
「疲れてるのかな……?」
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