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「病院代も、ちゃんと明日返すから。……じゃあ、また明日」
「また……って、帰るんですか」
「うん、まぁ。妹に心配させたいわけでもないし」
長居をして気を遣わせたいわけでもなかったからだが、「家で休めるなら帰っても」と言っていたはずの昂輝が渋い顔をする。
「帰っても帰らなくても心配するでしょ。というか、どう説明するつもりなんですか、それ」
不満と心配の入り混じった声に、はは、と浅海は軽く笑ってみせた。
「喧嘩したことにでもしとこうかな。中学生くらいのころはたまにあったし」
「そんなこと言って。浅海さんが怪我するようなことほとんどなかったでしょう。俺に一発も入れさせてくれなかったくせに」
「懐かしいな、それ」
頭の中に、幼かった硬質な横顔が浮かぶ。誰も信じないという冷めた目をしていたころを思うと、信じられないくらい昂輝は変わった。けれど、きっと、自分はなにも変わっていない。
揺れそうになった感情を留め、浅海はとりとめもない言葉を選んだ。
「でも、あのころの昂輝とは体格にも差があったから」
そう、自分よりずっと小さくて、誰も彼もが敵だと言わんばかりの棘々しい雰囲気をまとっていて。昔の自分みたいで放っておくことができなかった。
だから、昂輝に構うようになったのは自分の勝手なのだ。
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