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気に食わない相手を暴力で黙らせようとする昂輝が心配だったことも本当だし、自分のしつこい声かけに絆されて、徐々に言動が変わっていくことにほっとしたことも本当だ。
でも、だからこそ、必要以上に心配をさせたくなかった。自分にとっても、数少ない大切な存在になっていたから。
「浅海さん」
まっすぐに、昂輝はそう呼びかけた。
「俺、あのころより、ずっと成長しましたよ」
「うん、知ってる」
「じゃあ」
おずおずと伸びてきた手が肘のあたりを掴む。触れるとわかっていたから、今度はみっともなく震えなくて、そのことに、ただほっとした。
「甘えてください。寄りかかってください。支えれますから、俺」
なんでそうやって真剣に――必死に言ってくれるのだろう。もしかして必要のない責任を負わせてしまったのだろうか。そうだとしたら、本当に申し訳ないことをしている。
そんなふうに思いながらも、うん、と浅海は頷いた。誠意に応えたかったからだ。
「ありがとう、昂輝」
その気持ちだけで、十分すぎるくらいだと思った。俺は十分に恵まれている。だから、大丈夫だ。
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