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「上手ですもんね」
その視線は、侑平が教室から持ってきてくれた自分の弁当に注がれていた。
上手下手というよりは、妹の弁当を用意せざるを得ないから、ふたり分つくっているというだけなのだが。
ついでに言うなら、妹が見た目をかわいくしろだのなんだのと要求してくるから、そういう見栄えになっているだけで、好き好んでやっているわけでもないのだが。
「いや、でもそれにしたって……」
苦虫を噛んだような表情で口をつぐんだ昂輝に代わって、侑平が口を開いた。こちらはこちらで、あいかわらず頭の痛そうな顔をしている。
「あのな、浅海。その、なんつうか、おまえ、顔だけはいいんだから」
「いいんだから?」
「だから、その」
「浅海さん」
気を取り直したように、昂輝がにこりとほほえんだ。心なしか妙な凄みを感じる。
「俺は、浅海さんが人を色眼鏡で見ないのは長所だと思いますよ、本当に。でも」
「で、でも?」
「色眼鏡であなたを見る人は、あなたの意志とは無関係に多いんだってことは、自覚してもいいとは思いますけど」
くそ、一基さんに借りができたじゃねぇか、と昂輝が小声で吐き捨てた内容は聞こえなかったふりで、曖昧な笑みを浮かべる。
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