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 どうしてこういうことになったのか、という事の起こりは、約束を実行するために八瀬のマンションに赴いた、一時間半ほど前に遡る。  もっともこのときは、アルバイトをもちかけられるとは思ってもいなかったのだけれど。  学校が終わった足でやってきた浅海を出迎えてくれたのは、このあいだと同じ穏やかな笑顔だった。 「いらっしゃい、浅海くん」 「こんにちは」  高級そうなマンションに覚えていた気おくれが吹き飛んで、自然と笑みが浮かぶ。 「このあいだはありがとうございました」 「どういたしまして。でも、そのお礼で今日は来てくれたんでしょ?」 「お礼になってるのかわからないですけど。昂輝にもなんでそうなったんだって驚かれちゃって。……あの、なので、来ておいて、いまさらなんですけど、ご迷惑だったら言ってくださいね?」 「迷惑だったら呼ばないから。気にしないで」  さらりと受け流す八瀬の態度は優しい大人そのもので、勝手に少しうれしくなる。  好きに使っていいから、と案内されたキッチンスペースで調理を始めてしばらくすると、八瀬もリビングテーブルのほうでノートパソコンを広げ始めた。その傍らには書類が置かれている。対面式キッチンだから、よく見えるのだ。  今日は休みだと言っていたけれど、在宅でする仕事はあったのかもしれない。  指先の動きに気を配って大きな音を立てないようにしながら様子を窺う。  ーーこれぞ大人って感じだなぁ。  実際、彼は自分よりいくつも年上の大人の男の人なのだから、あたりまえではあるのだろうが。  盗み見た横顔は、なんだかすごくかっこよく見えた。
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