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「あの……」 「そうなんだ」  言い訳しようと上げた声と、あっさりとした返事が重なる。 「ん? ごめん、なに?」  聞き返されて、「なんでもないです」と浅海は首を横に振った。気にされていないのなら、かまわないのだ。 「そう? ならいいけど」  言葉どおりのなんでもない調子で頷いて、八瀬がみそ汁に口をつける。「うん、おいしい」 「でも、みそ汁とかひさしぶりに飲んだな」 「外食が多いって言ってましたよね、たしか」 「外食が多いというか、面倒くさくて。ひとりだとあんまり食べる気も起きないんだよね」 「そうなんですか」  言っていることはわかる。わかるし、ひとりだとつくる気が起きないということもよくわかる。でも。 「俺が言うことじゃないと思いますけど、あんまり身体によくはないですよ、そういうの」 「まぁ、ねぇ」  気を悪くするでもなく相槌を打っていた八瀬が、ふと思いついたように口を開いた。 「ついさっき甘えなって言った手前、こんなこと頼むのもどうかと思うんだけど」 「なんですか? なんでも言ってください」  自分にできることなんて、たかが知れているだろうけれど。  勢い込んだ浅海に、八瀬がほほえみかける。 「浅海くんってさ、掃除とかも得意だったりする?」 「掃除ですか」  なんで掃除なんだろうとの疑念を抱ぎながらも、そのままを告げる。とりたてて隠すようなことではない。 「人並みでよければできると思いますけど。うちは母がいないので。料理もですけど、掃除も昔からしてましたから」 「へぇ、どうりで」  それでも、先ほどと同じようにあっさりと受け流してもらえたことに少なからずほっとした。  隠すようなことではないが、余計な気を使われたくはないし、同情されたくもない。面倒なことを言っている自覚はあるのだが。  やっぱりそういうところ大人だよなぁとしみじみとしていると、八瀬がにこりと目元を笑ませた。 「じゃあ、浅海くんさえよかったらなんだけど、俺の家でアルバイトしない?」  そして、冒頭に戻る。
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