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「えっと……」  もちろん、という彼の言葉に頷いたものの、本当に自分でいいのかという疑念は残っている。  だって、どう考えてもいいとは思えない。思い切って、浅海は口火を切った。 「あの、でも、やっぱり、ちゃんとしたプロの方に頼んだほうがいいと思いますけど」 「俺、よく知らない人間に、自分の家のもの触られるの嫌なんだよね」  それも、まぁ、わからなくはないけれど。逡巡しているうちに、駄目押しで畳みかけられてしまった。 「だから、浅海くんさえよかったら。もちろんバイト代も払うし」  どうかな、と再度ほほえまれること数秒。浅海はその提案に頷いた。  押し負けた感は拭えないし、務まるのだろうかと危惧したことも事実だ。けれど、頼みごとをされること自体は好きだし、自分なんかで役に立つのならやりたいとは思う。ただ。 「俺でいいなら。でも、本当に俺でいいんですか。一基さん、俺のこともよくは知らないですよね」 「浅海くんのつくるごはんはおいしかったし、ちゃんとコミュニケーションも取れる。それで十分だよ」 「それならいいんですけど」  明瞭に不安を払拭してもらえて、肩から力が抜ける。八瀬もにこりと目元を笑ませて応えた。 「それに、あの気難しい坊ちゃんが気に入ってるってことは、つまり、そういうことかな」
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