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「浅海くん」
呼びかけると、子どもの腰に手を回そうとしていた男が、ぎょっとしたように動きを止めた。そのとなりで瞳を瞬かせている子どもに向かって、八瀬は軽く手を振ってやった。こちらに気がついたらしく親しげな顔に変わる。
犬みたいだなと思っているうちに、子どもが笑顔で駆け寄ってきた。
「こんばんは。……えっと、一基さん?」
「こんばんは。どうしたの、こんな遅い時間に。もしかしなくても、夜遊び中だった?」
揶揄を含んだ八瀬の問いかけに、子どもはきょとんとした表情を垣間見せた。にこ、とほほえみかけると、慌てたように首を横に振る。
「違います。バイトの帰り」
「バイト?」
「そうです。バイト。それで、そうしたら道案内してほしいって頼まれて」
「道案内? どこに」
そんなもの、スマートフォンで調べれば解決するに決まっている。つまるところ、古典的な連れ込みだ。わかっているのかいないのか、子どもは衒いなくラブホテルの名前を口にする。
「へぇ」
「でも、俺、あんまりわからなくて。一基さん知ってます?」
傾げられた頭の向こう側に、もう男たちの姿はない。
「知ってはいるけど。でも、もういいんじゃない? 行っちゃったみたいだよ」
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