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「浅海くんが?」
「高校に入ったときに抜けたんですけど、いろいろ教えてもらえて楽しかったです。今もたまに……って、まずかったですか、この話」
「どうして?」
「だって、バイトお世話になるのに」
外聞の悪い話を、ついたらたらと。口を閉ざした浅海を見つめていた八瀬が、ふっと小さく笑った。どこかおもしろがるように。
「そんなこと言ったら、俺やくざだよ?」
その言葉に、きょとんと瞳を瞬かせる。やくざ。
「そういえば、そうでしたね」
そういえばもなにも、あったものではないのだろうが、そうとしか言えなかったのだ。
そのとおりではあるし、昂輝の家で会ったときは、雰囲気のある人だなぁと思った。怖いとは思わなかったけれど。それに――。
――昂輝とはまた違った意味で、そういうふうに思えないというか。
「一基さんがいいなら、お世話になりたいです。よかった」
「それなら、俺もよかった」
にこりと頷いた八瀬が、そうだなと少し悩むようにしてから切り出した。
「とりあえず、週に一回、木曜日。家のことを片づけてもらうのと、ごはんの用意。一回あたり五千円でどう?」
もらいすぎている気がして、返事に迷ってしまった。
交通費もさしてかからないところだし、今日も来て二時間くらいしか経っていないのだ。時給換算したら高すぎる。
買ってきてくれた分は清算するから、とお礼のはずの今日も押し切られていることから鑑みて、買い物代が含まれているようにも思えない。
「もらいすぎじゃないですか?」
「そう? 一万円でもいいかなと思ってたんだけど」
まったくそうは思いませんというふうに首を傾げられるに至って、浅海は曖昧にほほえんだ。
「十分です、五千円で」
もらいすぎだとは思うが、自分が口をはさみすぎていい話でもないし、彼がそうと言う以上、見合う働きをするしかない。
でも。
――やっぱり、そんな掃除が必要な部屋には思えないけどなぁ。
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