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「なんか、最近、浅海さん楽しそうですよね」
昂輝にずばりそんなことを言われたのは、期末テストも終わって、もうまもなく夏休みというころだった。
学生で賑わっているファーストフード店の一角で、少し考えてから浅海はほほえんだ。
「そうかな」
「そうですよ」
「ふつうだと思うけどなぁ」
と言いつつも、心当たりは実はあったのだが。
見てくれと頼まれていた答案用紙に視線を向け直すと、昂輝がぐっと黙り込んだ。勉強を見てもらっていることを思い出したらしい。
そういうところが素直でかわいい。だから、たぶん、テスト勉強もまったくしていなかったわけではないのだと思うのだけれど。
「そんなことより、もっと追試のほう気にしろよ、おまえ」
同じように昂輝のテストを見ていた幼馴染みが、呆れた顔で口をはさんだ。侑平が持っている英語の答案には赤が半分以上入っている。
「だって」
「だってじゃねぇよ。おまえ数Ⅰと英語、来週の追試も落としたら夏休み前半補習でつぶれんだろ?」
それだけは嫌だから追試対策に付き合ってくれと泣きつかれて、三人でここにやってきているのだ。
小一時間経過して集中力が切れてきたらしく、雑談が始まったわけだが。昂輝は溜息まじりに、ぷらぷらとペンを回している。
「そうだけど」
「あのな、数Ⅰはケアレスミスが大半だからまだいいとして、おまえ英語ぜんぜん構文も単語も覚えてなかっただろ」
「……」
「英語はな、暗記さえすれば平均は取れるんだよ。暗記さえすりゃ」
もっともな説教にバツが悪くなったのか、「覚える気がないわけじゃないんだけど」とぼそぼそとした言い訳が始まったが、最終的に「嫌いなんだよな、英語」と昂輝は開き直った。
「なんか見てたら眠くなる。ぜんぜん覚えらんねぇ。っつか覚えらえる気がしねぇ」
「馬鹿なことばっかり言ってねぇでやれよ」
そんなふうに言いながらも、侑平は去年自分が使っていた暗記帳を貸してやっている。面倒見がいいのだ。
ほほえましく見守りつつ、浅海は昂輝に指摘されたことを考えていた。
なにをもって楽しそうと評されたのか、という自覚はある。あるのだけれど。
――そんなにあからさまだったかな、俺。
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