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「そういや、おまえ、新しいバイト始めたんだって?」
「え? え、いや、なんで?」
「なんでって……」
ちょうど考えていたことだったせいで、狼狽えたような声になってしまった。その反応に、侑平が訝しげに眉を寄せる。
「里奈から聞いただけなんだけど。この一ヶ月くらい、おまえが木曜は帰ってくるのが遅いけど、妙に機嫌はいいって」
「あー……」
妹の名前に、きまり悪く頬を掻く。情報源が情報源だけに、そんなことはないと否定しがたい。
おまけに、大人しく暗記帳を捲ろうとしていたはずの昂輝からも視線を感じて、しかたないかと浅海は口を割った。
「まぁ、その、新しいバイトを始めたのは本当……、かな」
「バイトって、なんのバイトですか?」
「えっと、一基さんに紹介してもらって」
「一基さんに?」
予想どおりに跳ね上がった昂輝の声に苦笑いになる。
そういう反応をされるだろうなぁとわかっていたから、言いそびれていたのだ。
「紹介って、なにを紹介してもらったんだよ?」
「えーと、……その、一基さん、不在がちだから、家のこと片づけてくれると助かるって。だから、週一でお世話させてもらってるというか」
「なんでですか!?」
「え、だから、……助かるって、言ってもらったから?」
既視感のある会話だなぁと思いながらもほほえむと、昂輝が苦い顔で黙り込んだ。既視感しかない。
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