1/14

499人が本棚に入れています
本棚に追加
/101ページ

[ 4 ] 「え? 入院?」  ソファで寝ころんで漫画を読んでいた妹が視線を向けたのがわかって、浅海はなんでもないと手振りで示した。  そのまま廊下に出て、居間に続くドアを閉める。 「入院って、風見さんどうしたんですか? え、事故った?」  バイクで。ツーリング帰りに。そういえば昨日言ってたな。ひさしぶりに単車転がしてくるとかなんとか。 「はぁ、……猫。いや、どっちも無事だったならなにより……、あぁ、猫は無事だったけど、風見さんは左手と左足をやったと」  風見は自損でよかったと笑っているが、笑いごとではないだろうと思う。それはまぁ、誰かを巻き込まなくてすんだのは不幸中の幸いだっただろうけれど。 「気をつけてくださいよ、本当、それ。え? 店のほうは弟が代理で入るって……、達昭さんですか」  嫌そうな声を隠さなかった浅海に、電話の向こうで風見は「悪いなぁ」と苦笑いだ。  けれどすぐに、「でも、まぁ、悪いやつじゃないから」との取り成しが入る。  往々にして面倒な人間のことを、身内はそう評すことで言葉を濁すのだ。  ……とは思ったものの、一ヶ月のあいだだからと懇願されてしまえば、わかりましたとしか言いようがない。 「はい、まぁ、えぇ、そうです。夏休み中ですよ。……はい、わかりました。シフトの融通は利くんで大丈夫です。わかりましたから、だから、風見さんは無理しないでくださいね」  お大事にしてください、と告げて電話を切る。  あの風見さんがバイクで事故るとか。もう年だな、なんて本人には絶対に言えないことを考えながら、溜息まじりにひとりごちる。 「弟さん、ちょっと苦手なんだけどな……」  風見の言うとおり悪い人ではないのかもしれないが、なんというか。
/101ページ

最初のコメントを投稿しよう!

499人が本棚に入れています
本棚に追加