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 ――まぁ、でも、しかたないか。  夏休みで時間にゆとりがあるのも事実で、風見に頼まれるとどうにも断れないのも事実なのだ。  一ヶ月の辛抱と割り切ってドアを開けると、妹が話しかけてきた。 「どうかしたの、お兄ちゃん」 「たいしたことじゃないよ。バイト先の人」 「ふぅん」  興味津々の顔のままだが、妹に聞かせるような話でもない。 「里奈は勉強しなくていいの? 父さん、行きたいなら夏期講習行っていいって言ってたんじゃないの」 「やだ。塾とか知らない人ばっかりだもん」  友達と行けばいいのに、なんて言おうものなら、大激怒のち大号泣のヒステリーを起こされるのは目に見えている。なので、苦笑いで浅海は相槌を打った。 「そっか」 「そうなの、いいの」  頑なな調子に、それ以上の説得を諦める。話題の転換ついでに、やる気を出してくれるならと思ったのだが、甘かったらしい。  妹の里奈は中学三年生で、いわば今が受験の天王山のはずなのだけれど。夏休みが始まって一週間、ずっとこの調子で漫画ばかり読んでいるのだ。  背伸びをした受検をするつもりはなさそうなので、どうにかなるのかもしれないが。去年の昂輝の猛勉強ぶりが頭に残っているせいで、余計に心配になってしまう。 「ねぇ、今日のごはんパスタがいいなー」  そんなことより、と言わんばかりの態度に、また苦笑がもれてしまった。 「里奈、昨日、ハンバーグが食べたいって言ってなかったっけ」  デミグラスソースの、と主張された覚えがあるのだが。漫画から目を離しもしないまま、あっさりと妹が言う。 「そういう気分に変わったの」 「わかった、わかった」  あまり甘やかすと里奈のためにならないと、幼馴染みには口を酸っぱくして言われているのだが、ついつい世話を焼いてしまうし、こうしてわがままを受け入れてしまう。  夜に多く家を空けていることに対する罪悪感なのかもしれない。
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