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 ――でもそれって、色恋営業ってやつじゃないのかな。  八瀬の家のキッチンに立ちながら、浅海はそんなことを考えていた。  風見がいつもさらりとかわして、ほかのバーテンにもそういうことをさせないように目を配っていたもの。  だから彼女たちも、「前の店長さんと違って話がわかる」という反応だったのではないだろうか。  ――それとも、来店を催促したりとか、高い酒を入れてほしいとか、そういう直接的なことを言わなかったらセーフなのか?  そう思おうとしてみたが、そんなわけがなかった。  常連になったら連絡先を交換できる、みたいな餌をぶらつかせた時点で間違いなくアウトだろう。  でも、どちらにしても。灰汁をすくいながら、浅海は無言のまま首をひねった。  客寄せパンダの色恋営業って、最悪すぎないか。おまけに年齢も誤魔化してるわけだし。  特に年齢のほうはバレたら大変よろしくない。高校生の自分が二十二時を超えて働いている時点で、法令的には完全にアウトだ。  達昭は「バレない、バレない」と笑うだけなので、気を揉んでいるのは自分ばかりではあるのだが。  ――って言っても、風見さんに余計な心配も、迷惑もかけたくないしなぁ。  恋しいは恋しいのだが、入院中で大変だろう風見を巻き込みたくはないのだ。  達昭の要領がいいのは事実なので、たぶんきっと大丈夫なのだろうとも思う。それに、たった一ヶ月のことだ。  そう自分に言い聞かせてから、ぽつりとひとりごちる。 「落ち着く……」  あのアルバイトに比べたら、八瀬の家のアルバイトなんて天国みたいなものだ。最近は忙しいのか会えないことがあって、それが少し残念ではあるのだけれど。  向こうでのことを思えば、料理を作るのも掃除をするのも、どちらもものすごく健全だし、なにより八瀬のために少しでもなるのなら、素直にやりがいがある。
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