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気にしてばかりいるのは馬鹿みたいだとは思う。でも、嫌だったわけではないのだとも思う。
戸惑ったし、混乱もした。恥ずかしいとも思った。でもそれだけで、嫌悪感は感じなかった。
じゃあ、「試した」結果、嫌悪感を感じないから男でも平気なのかと問われると、やっぱりよくわからない。
だって、たぶん、あれは――。
「浅海くん?」
急に耳元で響いたように思えた声で、ばちりと目が覚めた。
……って、俺、寝てた?
もう少し帰りを待ってみようと思ったところで、見事に記憶が飛んでいる。机に伏せっていた顔を上げると、見下ろしていた八瀬と目が合った。
「一基さん」
驚きすぎたせいで、ガタっと椅子が耳障りな音を立てた。その大仰な反応にだろう、八瀬は苦笑いを浮かべている。
「そんな反応されると、こっちが照れるな」
「……すみません」
自意識過剰としか言えないようなそれに、思わず顔が赤くなる。なんだか、過剰な反応をしてばかりだ。
けれど、八瀬がそれ以上からかってくるようなことはなかった。
「どうしたの。疲れてた?」
「そんなつもりはなかったんですけど」
いつもの調子にほっとして、肩から力が抜ける。
「すみません。もう少しだけ一基さん待ってようかなと思ってたら、うとうときちゃったみたいで」
時間を確認すると、まもなく日付が変わるころだった。
――こんな時間なんだな、帰ってくるの。
よくよく考えると、夜の街で声をかけられたときも、このくらいの時間だった。やはり忙しいのだ。
そんなふうに思っていると、ふっと八瀬がほほえんだ。
「風邪ひくよ、そんなところで寝てたら」
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