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先週も会っていないから、だとか。帰りづらい、だとか。
いろいろと理屈をこねていたけれど、そうじゃないと思い知った気分だった。ただ、顔が見たかっただけだったのだと。
その証拠に、最近ずっともやもやとしていた心も不思議なくらい穏やかで。
けれど、迷惑をかけたいわけじゃない。
「すみません、もう帰りますから」
そう断って、立ち上がる。すでに必要以上に長居してしまっているのだ。早く片づけて帰らないと。
台所へ戻ろうとしたところで、ふと気づいて振り返る。
「ごはんどうします? 温めてから帰りましょうか」
「それはかまわないけど。というか、どうやって帰るの。送っていこうか?」
「大丈夫です。まだ終電ありますから、それで」
そんな迷惑をかけられるわけがない。笑顔で断って、やり残しがないかを確認していく。でも、それにしても。
――ちょっと、びっくりしたな。
自分が人の家で寝てしまったこともそうだし、寝起きだったとは言え、あんな反応を示してしまったこともそうだ。
八瀬は変わらないのに、自分ばかりが気にしてしまっている。それもこれも、自分が子どもだからなのだろうか。
まぁ、一基さんはいかにも慣れてそうだもんなぁ。そんなふうなことを考えながら帰り支度を整える。暇を告げようとリビングに足を踏み入れたところで、あれ、と浅海は首を傾げた。
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