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「一基さん?」  同じ場所に立ったままだった八瀬が、にこと小さく笑う。 「駅まで送っていってあげようかなと思って」 「え、でも……」  迷惑じゃ。予想外の提案に戸惑っていると、彼はあっさりとこう続けた。 「ちょうどいい酔い覚ましかな。もちろん、浅海くんが嫌だったら後にするけど」  その言い方はちょっとずるい、と思った。そんなふうに言われて、断れるわけがない。だから折れることしかできなかった。 「ありがとう、ございます」  そうして、この人は大人なんだなと改めて実感した。遠慮せずに受け入れることができるよう、柔らかい言葉で誘導してくれる。  ――この人の、どこが怖いんだろう。  昂輝が自分を心配してくれているのだということはわかっている。自分よりもずっと彼のこと知っているのだろうともわかっている。  けれど、どうしても、そんなふうには思えなかった。 「嫌じゃないです、ちっとも」  うれしい、とはにかむようにして続ける。本心だった。  酔い覚ましと言ってくれてはいたけれど、八瀬からアルコールのにおいはしなかった。遅い時間に帰ってきた彼に送ってもらうなんて、迷惑もいいところだ。  どちらも理解していたのに、断ることができなかった。迷惑をかけたくないと思っていたはずなのに、彼の手で子どもにされているみたいだった。  はじめてこの家に来たとき、大人に上手に甘えるのも子どもの仕事だと、なんでもない顔で八瀬は言っていた。  そういう意味で、彼にとって自分は子どもでしかないのだろう。年齢を考えてもあたりまえのことだ。うれしくないわけでもない。  それなのに。  自分が大人でないことが少しだけ悔しいような気も、なぜかしてしまった。
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