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「忙しいんだ? バイト」
駅に向かう道を三分の一ほど進んだところで問いかけられて、浅海は曖昧な笑みを浮かべた。
「あ、……忙しい、というか」
そう。シフトが極端に増えているわけではないのだ。ただ、なんというか。思い浮かんだ顔を打ち消して、当たり障りのない返答を選ぶ。
「ちょっと気疲れしてるのかもしれないです。新しい人が来たので」
「あぁ、まぁ、そうかもね。上が変わったら」
夜の空気にぴったりの、静かな声だった。八瀬のマンションは閑静な住宅街の一角にあったから、あまり人と行きかわない。
その静かな道をふたりで歩いているのは、少し変な感じだった。
でも、上が変わったなんて言ったかな。そんな疑問を覚えたものの、まぁ、一基さんだしな、ですぐに納得してしまった。この人の勘が鋭いのは今に始まったことではないし、一を聞いて十を知るを地で行く人なのだと思っている。
「でも、一ヶ月くらいのことなんで。だから、大丈夫です」
「それ、大丈夫じゃなくて、大丈夫って言い聞かせてるって言うんだよ」
浅海の言い方があまりにも言い聞かせているふうだったのか、八瀬が小さく笑った。そうしてから、こう付け加える。
「無理しなくていいからね、こっちは」
「え?」
「あぁ、だから、忙しかったらこっちは休んでいいよ。家のこともしてるって言ってなかったっけ」
「あ、はい。それは、そうなんですけど。もう、慣れてるので。そっちは生活の一部というか」
「主婦みたいなこと言うね」
それを言われると、まぁ、そうかもしれないとしか言いようがないのだけれど。
八瀬の家でのアルバイトをやめたくはなくて、「だから大丈夫です」と言い募る。
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