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「今日こそは連絡先交換してよぉ」
「しません」
常連になりつつある女子大生に酒に酔った赤ら顔でからまれて、浅海は苦笑いで首を横に振った。
常連になったら連絡先交換ありかもよ、なんて言っていた達昭の台詞は、はたしてどの程度本気に受け取られているのか。最近は週に三度のペースで彼女たちはやってきている。
通い続けることは、決して安いお金ではないと思うので、やんわり「できない」「しない」と伝え続けているつもりなのだが。
「あの人の冗談真に受けないでください。ほら、もうお酒は終わりにしましょう?」
「うっ……、やさしいのがつらい……、あしらわれてるってわかってるのに顔がいいから近くで見ていたい……」
「建前、建前」
欲望しかない、と笑いながら、いつも一緒に来店する友人の女性が申し訳なさそうな顔を向けてくる。
「ごめんね、半分冗談だから、気にしないで」
「半分は本気だけどね」
「半分は、っていうか、あわよくばってやつでしょ」
「交換してあげたらいいのに。その子けっこうかわいいじゃん。おもしろいし」
近くの席に座っていた男性客からも水を向けられて、営業スマイルで受け流す。彼女の迫り方が良くも悪くも冗談の範疇にとどまっているせいで、お決まりのやりとりのようになってしまっているのだ。
「それとも俺と交換する?」
「誰ともしません」
口調だけは柔らかく断って、もやもやとするものはすべて笑顔で覆い隠す。そうすれば、なんとかなるのだということを学んでしまった。
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