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情けは人の為ならず、とはよく言ったものだが、とどのつまり、自分の行動理念はそれに倣っているのだと思う。
「ごめんね、藤守くん。昼休みなのに運ぶの手伝ってもらっちゃって」
「ぜんぜん。というか、女の子ひとりに押し付けたやつがどうかと思うし」
浅海自身ももうひとりの担当が誰なのかは覚えていないので、本人も忘れていただけかもしれないが。
四時間目の選択授業で使っていた教材と、選択者が提出した課題ノート。ふたつをあわせれば、それなりの量になる。女子生徒ひとりで運ぶのは大変だろうと手伝いを買って出たのは、親切心というより義務感に近かった。
それだけのことで、たいした手間でもないのだ。申し訳なさそうな顔をされると、逆に申し訳ない。
職員室に向かいながら、そう応じると、彼女がふふと頬を緩めた。
「ほんと優しいよね、藤守くん。だからあの子も懐くんだろうな」
「あの子?」
「ほら。あの一年のやくざの……」
内緒話をするように潜められた声が、背後からかかった呼び声で中途半端に途切れる。
「浅海さん」
「昂輝」
振り返ると、正に今、話題に上ろうとしていた後輩が仏頂面で近づいてくるところだった。その隣には、浅海の幼馴染の姿もある。昂輝が入学してきてからは三人で昼休みを過ごすことがあたりまえになっていた。もしかして、迎えに来てくれたのかもしれない。
そう思い当たって、浅海は昂輝に断りを入れた。
「あ、ちょっと待って。これ職員室まで持っていくから」
「いい、いい! もう、すぐそこだし! ありがとね!」
言いざま、問答無用の勢いで持っていた段ボール箱を取り上げられてしまった。「やばい、絶対聞かれた」と呟いたのを最後に走り去っていく。止める間もなかった。
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