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「え、高校生」
嘘でしょと言わんばかりの呆然とした声に、慌てて女子大生のほうへ意識を戻す。声同様の半ば呆然とした顔に、浅海は申し訳なさそうな笑みを浮かべた。今度ばかりは演技ではなく、本心で。
「まぁ、じゃあ、そういうことで。帰ろうか、浅海くん」
「え、……っと、でも」
「高校生はもう帰る時間。送って行ってあげるから、荷物取ってきな」
成り行きを見守っている様子の達昭にちらりと視線を向けると、行けというふうに首を振られてしまった。
いいのだろうか、と思ったものの、この場所で押し問答するわけにいかないのも事実で。
「それじゃ、すみません。今日は先に上がらせてもらいます」
どうにか笑顔を取り繕って、その場を離れる。カウンター席から囁き合う声が聞こえていたけれど、なにを言われてもある程度はしかたがないと思う。だって、騙していたようなものなのだ。
それにしても。
――俺、そんなにこのあいだしんどそうだったのかな。
八瀬が、お節介を焼いてやろうと考えてしまうほどに。
気を遣わせたのなら申し訳なかったなと思いながら着替えていると、達昭がバックヤードにのそりと入ってきた。
「あ、……すみませんでした。上がらせてもらっちゃって」
「いや、それはまぁいいんだけどさぁ」
とても「いい」とは言えない顔のまま近づいてきた達昭が首を傾げる。
「おまえ、あの人とどういう知り合いなわけ?」
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