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「え……っと、友達の、友達で。バイトさせてもらったりしてますけど」  嘘は言っていないのだが、曖昧な言い方になってしまった。だって、自分たちは「友達」じゃない。  ――知り合いの子、って一基さんが言ってたのが答えだよな。  大事な、という形容詞をつけてくれたのは、昂輝の友達だからで、そういうことでしかない。 「なんだよ、言えよ、そういうことはぁ」  バシバシと笑顔で背中を叩かれて、思わず「すみません」と謝ってしまった。  よくはわからないが、八瀬と知り合いのようだし、従業員との関係を把握していたかったのかもしれない。よくはわからないが。 「あの、……本当に上がらせてもらって大丈夫でした?」 「あの状態で続けられるわけねぇだろ。帰れ、帰れ。明日も来なくていいから」 「え、それは」  アルバイト代がなくなるという意味で、ちょっと厳しい。 「あの、裏方」 「昼に入ってるだろ、おまえ。それでいいことにしろよ」  それは、まぁ、たしかに入っているけれど、夜に比べたら微々たる日数だ。でも、と言いすがろうとした背中を達昭がもう一度バンと叩いた。 「ほら、あんまりあの人、待たせんなって」  それも、まぁ、そのとおりなのだけれど。苛立ったように髪を掻きやってから、達昭が煙草に火をつけた。狭いバックヤードに煙が充満する。 「あの人、怖ぇんだよなぁ、マジで。表面上はにこやかな分、キレたら怖ぇのなんのって」 「……キレられるような真似しなきゃいいだけじゃないですか」  そもそも八瀬が怒るという図がいまひとつ想像できないのだが。あの感情の起伏の薄そうな人が、怒るのかという。  それなのに、達昭は「わかってないねぇ」とでも言うように、長々と紫煙を吐き出した。
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