7/16

501人が本棚に入れています
本棚に追加
/102ページ
「でも、その、ご迷惑をおかけしたとは思うので」    もう一度すみませんと告げると、八瀬が小さく笑った。 「大人には甘えるものだって言ってるのに、あいかわらず下手だね」  そういえば、これも前にも言ってもらったのだったな、と思ってしまった。気遣ってくれる優しい人なのだと思ったことも覚えている。  でも、やっぱり、甘えるというのは、どうすればいいのかわからなかった。  だから、曖昧に笑って濁すことしかできなかった。   「まぁ、それが浅海くんなんだろうけど」  あっさりと話を切り上げて、八瀬が歩き始める。戸惑いを読み取られてしまったのかもしれない。 「おいで、送って行ってあげるから」 「あ、あのっ」    はっとして呼び止めると、八瀬が振り返った。 「なに?」 「その、……今日は家に帰るつもりなくて。だから、大丈夫です。ありがとうございます」  家に帰るつもりがない、なんて、反抗期の子どもみたいなことを言っている。わかっていたけれど、そのつもりだったのだからしかたがない。  それに、これ以上迷惑をかけるわけにもいかないし。もろもろを取り繕って人当たりのいい笑みを向けた浅海に、八瀬も小さくほほえんだ。 「それって、帰りたくないって誘ってるの?」 「え? ――あ、違います。そんな滅相もない」 「滅相もって」    おかしそうに喉を鳴らしてから、八瀬が問い重ねてくる。  「じゃあ、どうするつもりだったの?」 「え……っと、それは……」  風見がいたら、たぶん店の仮眠室を借りていたのだけれど。 「坊ちゃんのところでよかったら送って行くけど」 「昂輝のところは、その」  昂輝もきっと快く迎えてくれるとは思う。思うのだけれど、理由を言いにくいし、妙な心配をかけたくもなかった。  言葉に窮した浅海に、八瀬は「じゃあ」となんでもないことのようにこう続けた。 「俺のとこにする?」
/102ページ

最初のコメントを投稿しよう!

501人が本棚に入れています
本棚に追加