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「そうだ、浅海くん」  車が走り出してしばらくしてから、そう呼びかけられて、運転席に視線を向ける。 「はい」 「帰らないなら帰らないでいいんだけど、ちゃんと連絡しといてね。俺、犯罪者になりたくないし」 「えっと、……はい」 「あ、今、やくざのくせにとか思ったでしょ。あのね、浅海くん未成年なんだから、あたりまえ」 「いや、……そんなことは」  本当は、ちょっと思ったのだけれど。  本音は隠して、妹に連絡入れときます、と応じると、そうしておいてね、と念を押されてしまった。  いまさら一日帰らなかったくらいで心配されないと知っているが、彼の言うことは良識ある大人として間違いなく正しいのだろうと思う。 「そもそも、俺、安全運転でしょ。くだらない違反で引っ張られたら面倒ってだけだけど」 「……はぁ」 「目立つところで馬鹿やってるのは、下っ端のどうしようもない馬鹿だよ。まぁ、馬鹿だから性質が悪いってのはあるか」  たしかに、この人のとなりにいて危ないと感じたことはないな。そんなことを考えながら、相槌を打つ。こんな話を一基さんがするのも珍しいな、とも思いながら。  妹から返事があったのを確認して、八瀬に視線を戻す。これで、もう問題はないはずだ。 「なんだっけ、無敵の人だっけ? 失うものがない人間が一番こわいとか言うの、あれは言い得て妙だって思ったな」 「あぁ」  それは、なんとなくわかる気がする。静かな横顔を見つめたまま、浅海は頷いた。荒れていたころの自分もそうだったように思うし、昂輝もそうだったのではないかと思う。  失いたくないものや守りたいものがあれば、人間はきっと最低限安定する。
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