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「えっと……」  取り残されるかたちになって、浅海はへらりと笑いかけた。 「そんなに怯えなくてもいいのにな」 「べつにどうでもいいです、そんなことは」  にべもない調子だが、いつにも増して不機嫌そうに見える。  ――せっかくかわいい顔してるのになぁ。  言うと拗ねるのはわかっているから、口にはしないけれど。はじめて出会ったころの中学生だった昂輝なんて、黙っていればそれこそ美少女といった風貌だったのだ。  まぁ、そのころから性格は浅海の幼馴染みいわくの「猛獣」だったわけだが。  完全に傍観者に徹していた幼馴染の侑平に視線を向けると、諦めた顔で首を横に振られてしまった。 「こいつがおまえはどこだってうるさくて」 「うるさくなんてしてねぇ」 「屋上で待ってろって言ったのに聞かねぇから」 「おい、だから、――なんだよ、見てんじゃねぇよ」  こちらを窺っていた何人か、その言葉にぱっと目をそらした。それでも足りないというように、昂輝は睨んで周囲を威嚇している。 「昂輝」  しかたないなと浅海は、ふわふわとした茶色い頭に手を伸ばした。ぽんぽんと宥めるように撫ぜると、昂輝の顔から険が抜け落ちていく。バツの悪そうな顔。  侑平は「猛獣使い」だとか好き勝手に自分のことも評すけれど、昂輝の根が素直だというだけだと思う。
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