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「それはちょっとわかる気がします」 「うん。だから、気をつけたほうがいいよ」 「気ををつける、ですか?」 「このあたりは、そういう馬鹿も多いから。特に夜はね」  このあたりの、そういう馬鹿。一拍遅れて、この車にはじめて乗せてもらったときのことかと思い至った。  あの夜も、この人は、まるで見かねたみたいに声をかけてくれた。  ――昂輝も、侑平も、いい顔はしなかったけど、そんなあれかな。  と、思ったのが雰囲気ににじんでいたのか、ふっと八瀬が笑った。 「まわされるくらいならまだしも、ずっとデータ残ったら困るでしょ」 「……」 「困らない?」  達昭の言う「怖い」というのはよくわからないが、妙な圧というか、有無を言わせないものを感じる瞬間はなくはない。  というか、この人にとって、まわされるは「まだしも」なんだな。感覚の違いを覚えながらも、「それは、まぁ」と浅海は頷いた。  困るかるか困らないかと問われたら、それはまぁ困るけれど。 「困りますけど」 「そうだよね。未成年引っ張るのはかなり馬鹿なとこだとは思うけど」 「未成年って……」 「ん? 気づいてなかった?」  苦笑ひとつで、八瀬はあっさりと種を明かした。    「ホテルに連れ込まれたら最後、あれよあれよとAV出ちゃってました、なんてこともまったくないわけじゃないよ、このあたり」  二の句を告げないでいると、八瀬がまた小さく笑った。なんでもないことのように。 「危ないよ、男ふたりと一緒にラブホなんて行ったら。浅海くん入口で体調悪いふりでもしたら簡単に連れ込めそうだからな」 「その、……ありがとうございました」  としか、言いようがなかった。  本当にそういう状況だったのかどうかは、今となってはわからない。けれど、この人にとっては、よく見かける光景で、日常の一部なのだろうなということはわかった。  でも、だから、どうというようなことじゃない。  
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