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「みっともないですよね」  けれど、本心でもあった。笑って流してくれてかまわなかったのに、八瀬は笑わなかった。 「べつにみっともないとは思わないけど」  いつもと同じ、淡々とした静かな応え。同情するようなものが含まれていないことに、勝手に少しほっとした。 「というか、人間なんて基本的にみっともないしね。それをどうにかしたいから知識を身に着けて、建前を使うんでしょ」 「そういうものですか」 「そう思うよ、俺はね」  そうですか、ともう一度似た相槌を繰り返して、浅海は視線を膝に落とした。  慰められたかったわけではないつもりで、フラットな物言いがありがたかったのも本当で、それなのに、どういう顔を向けたらいいのかわからなかったのだ。 「うん。だから、弱音くらい好きに吐いたらいいよ。まぁ、浅海くんのそれは弱音ですらないと思うけど」 「……え?」  落としていた視線が、思わず八瀬のほうに動いてしまった。その視線にも気がついていただろうに、彼はさらりとした調子を崩さなかった。  浅海を見ようともしないまま、ただ言葉を紡いでいく。 「弱音を吐くことに慣れてないからだと思うけど、できてないなって。さっきのはね、ただ事実を並べただけ。本音のひとつも混ぜれてない」 「そう……、なんですかね」 「うん。そう思うよ。それで、今のうちにできるようになっとかないと、大人になるといっそうきつくなるよ、そういう性格」  車がマンションに入っていく。駐車スペースに止めたところで、八瀬の視線がゆっくりと動いた。
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