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おまえは、本当にあいつにそっくりだな。
酒に焼けた声で、そう嘲ってくる父親が苦手だった。気にせずにいたいのに、毎回なにかが底に溜まっていく。
かつてはそうではなかったのに、という意識が、しつこく頭に残っているせいなのかもしれない、とも思う。
はるか昔、まだ自分が小さな子どもだったころ、同じ言葉をまったく違うニュアンスで、優しく囁いてもらっていたはずなのに、と。
――気にしなくていいって言っても、本当によかったのかな。
脱衣所で風呂上がりの髪を乾かしながら、浅海はしつこく思い悩んでいた。
先に風呂も入らせてもらった挙句に、着替えもぜんぶ借りている現状は、甘えすぎているとしか思えない。
――ちょっと落ち着かないっていうか……。
そう、申し訳ないというか、なんというか。
悶々としたままドライヤーを切って、落ち着かない原因の一端であるシャツに視線を落とす。身の丈に余るというほどではないけれど、普段自分が着ているものに比べるとワンサイズほど大きい。
身長は十センチも変わらないはずだから、純粋に身体の厚みの差なのだろうと思う。大人だなと思うし、かっこいいなとも思う。
つらつらとそこまで考えたところで、ふと思考が止まった。シャツに触れていた指先に気がついて、ぎこちなく外す。
「かっこいいはおかしいだろ……」
いや、おかしくはないのかもしれないけど。でも。また悶々としてしまいそうで、浅海は小さく息を吐いた。そうして、鏡に視線を向ける。
大嫌いな母親にそっくりの、人目を惹くらしい顔。その顔がいつもと同じように取り繕われているのを確認して、浅海はその場を後にした。
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