4/10

502人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
 友達のところ。たまたま出会って泊めてもらった。突っ込みどころ満載の文面だが、そうとしか記しようがない。  名前を出せない時点で嘘だと見破られると、わかってはいるのだが。適当な名前を出したところで、確認を向こうに取られてしまったら、それで終わりだ。  良くも悪くも、自分たちの交友関係は昔から重なり続けている。    ――ま、いいか。  明後日には会う予定があるのだから、そのときに謝ればいい。半ば投げやりに思い切って、送信する。ついでに電源も落とした。今夜だけでいいから、干渉されずにいたかったのだ。  スマートフォンを伏せて、浅海はそっと息を吐いた。  気にかけてもらえていることは、ありがたいと思っている。それは本当だ。けれど同時に、気遣われるような感情を表に出したくないとも思っていた。自分の感情は、常に自分でコントロールしていたい。憐れまれたくなんてない。  結局、自分でも呆れてしまうくらい、プライドが高いのだ。だから、取り繕えないと判断すると、ひとりになりたくなって、逃げてしまう。  そうやって、今までずっとやり過ごしていた。  ――それなのに、なんであんなこと言ったんだろうな。  八瀬の声が優しかったから、だとか、深入りしてこないあっさりとした態度が心地よかったから、だとか。上げようと思えば、理由はいくつでも思いつく。  けれど、認めたくない理由がひとつだけ胸の奥に残っていた。もしかすると、無意識に甘えていたのではないだろうかという疑念。  甘えると言っても、あの人が提示してくれたようなかわいげのあるものではなく、もっと打算的で、人の心を試すようなものだ。  そういうふうなことを言ったときに、どういった反応をするのかと、そう。
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

502人が本棚に入れています
本棚に追加