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友達のところ。たまたま出会って泊めてもらった。突っ込みどころ満載の文面だが、そうとしか記しようがない。
名前を出せない時点で嘘だと見破られると、わかってはいるのだが。適当な名前を出したところで、確認を向こうに取られてしまったら、それで終わりだ。
良くも悪くも、自分たちの交友関係は昔から重なり続けている。
――ま、いいか。
明後日には会う予定があるのだから、そのときに謝ればいい。半ば投げやりに思い切って、送信する。ついでに電源も落とした。今夜だけでいいから、干渉されずにいたかったのだ。
スマートフォンを伏せて、浅海はそっと息を吐いた。
気にかけてもらえていることは、ありがたいと思っている。それは本当だ。けれど同時に、気遣われるような感情を表に出したくないとも思っていた。自分の感情は、常に自分でコントロールしていたい。憐れまれたくなんてない。
結局、自分でも呆れてしまうくらい、プライドが高いのだ。だから、取り繕えないと判断すると、ひとりになりたくなって、逃げてしまう。
そうやって、今までずっとやり過ごしていた。
――それなのに、なんであんなこと言ったんだろうな。
八瀬の声が優しかったから、だとか、深入りしてこないあっさりとした態度が心地よかったから、だとか。上げようと思えば、理由はいくつでも思いつく。
けれど、認めたくない理由がひとつだけ胸の奥に残っていた。もしかすると、無意識に甘えていたのではないだろうかという疑念。
甘えると言っても、あの人が提示してくれたようなかわいげのあるものではなく、もっと打算的で、人の心を試すようなものだ。
そういうふうなことを言ったときに、どういった反応をするのかと、そう。
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