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「じゃあ、最後にひとつ」
おまけね、と口調をやわらかいものに変えて、八瀬がほほえむ。
完全に気を使われているなとわかっていたし、子ども扱いされているなともわかっていた。
それなのに、じっと続きを待ってしまった。
「俺もね、顔の造作がいい人間はたくさん見てきてるけど、それだけじゃ人は集まってこないよ。まぁ、若いうちなら、一時的に群がってくることはあるだろうけど」
「ちょっと、わかる気がします」
「覚えあるでしょ。ろくなもんじゃないよね。……でも、うちの坊ちゃんは違うと思うよ。あの年にしちゃ、人を見る目はあるほうだから」
小さいころから擦れた坊ちゃんだったから、余計にかもね。苦笑まじりの台詞には、距離の近さがにじんでいて、少しだけ羨ましいような気持ちを覚えてしまった。
付き合いの長さを考えたら、あたりまえのことであるはずなのに。
「この家にはじめて来てくれたときにも言ったよね。坊ちゃんが懐いてるなら信用できるって」
覚えている。うれしかったからだ。そのときも、この人は自分の容姿について、ほとんど言及しないでくれた。
そのことが、浅海はうれしかった。もしかすると、だから、もっと関わりたいと願うようになったのかもしれない。
まっすぐに目を見つめたまま、八瀬は「大丈夫」と言い切った。まるで、保証でもしてくれるみたいに。
「ちゃんと浅海くんには、浅海くんのなかに魅力があるよ」
「……はい」
当たり障りのない慰めの言葉なのに、ほかでもないこの人が、まっすぐに告げてくれたことが、うれしかった。
噛みしめるようにして、もう一度頷く。
「ありがとうございます」
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