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[ 7 ] 「嫌な人から嫌なこと聞いたんですけど、ちょっと確認してもいいですか?」 「嫌な人?」  でかでかと不本意と書いてある顔に、浅海は首を傾げた。夏休みが終わって、ひさしぶりに学校で会った後輩が、顔そのものの不機嫌そうな声で繰り返す。 「そう、嫌な人です。めちゃくちゃ嫌な人。その人から聞いたんですけど、なんか、夜の変なバイトしてたんですって?」  三人きりだった放課後の教室に、嫌な沈黙が落ちる。また始まったとばかりにスマートフォンを触っていた幼馴染みにまでぎょっとした視線を向けられて、浅海はへらりとほほえんだ。 「……それはちょっと、語弊がすごいな」  嫌な人って、一基さんか。理解したと同時に会話に既視感も覚えた。……のだけれど、以前よりも棘がいっそう増しているような。 「語弊。つまり、なんですか。完全に間違ってるわけじゃないと、そういうことですか」 「えぇと、……その、夜って、風見さんの店なんだけど」 「風見さんの店って、なに、おまえまたむやみに居残ってたわけ? この前は言わなかったけど、さすがにあんまり店で寝泊まりすんなよ」 「あ、うん。最近はしてない……というか、実は、言ってなかったんだけど、風見さん入院しててさ」  あっさりを装って打ち明けてみたのだが、ふたり揃って驚かれてしまった。自分も第一報を聞いたときは驚いたのだけれど。なにせ、怪我とは無縁のような人だったので。 「え、……なにしたんですか、あの人。まさかいい年して喧嘩」 「あ、違う。そうじゃなくて、バイクでうっかり事故ったらしいよ。左手と左足やったって」 「なにやってんだ、あの人」  呆れ切った侑平の感想に、浅海は苦笑いを浮かべた。 「うん。そういう反応されるのが嫌だから、黙っててくれって。まぁ、一回お見舞い行ったけど、元気そうだったよ」 「じゃあ、ということは、あの店今誰が……って、まさか」  先ほどに増して嫌そうな昂輝の声に、苦笑いを維持したまま頷く。 「うん。達昭さん」
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